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青い空、白い城。
……城。
お伽話にでも出てきそうなこの城は、春を彩る満開の桜を傍らに、別世界のような非現実味を増して感じられる。
俺も嘗てはその景色に感嘆したものだが、2年目ともなれば、どんなに壮絶な景色も日常と化すものだ。
もちろん現代日本に、こんな無駄にでかい癖に歴史の欠片も感じられない城なんてあるわけもなく、この建物は城ではないんだけど。
俺は今、桜の木の上に居る。
時刻は午前8時13分、俺の手には双眼鏡、双眼鏡が映すのは閉ざされた大きな門。
「お……来た来た来た……」
思わず舞い上がる気持ちが、口から漏れ出てしまう。
…… 来た。この日をどれだけ待ちわびたことか。
この際、ポケットの中のスマホが10分間鳴り続けているのも、死ぬ気でよじ登ったこの木の降り方が思いつかないのも、必要な犠牲であったと思えてくる。
「校門大っきい……」
木からの距離故に、門から微かにだが聞こえる声、それを聞き逃すまいと前のめりで聞き取る。
前のめりになり過ぎて、木から落ちそうだ。
しかし、ここで見逃してしまっては俺の腐男子としてのプライドが許さないのだ。
今まで認識もしなかった部分の筋肉も含め、総動員で働かせる。
やるじゃん俺、どこにこんな筋肉隠し持ってたんだよ。
そして建物から歩いてくる別の影。
「きたきたァ!副会長なら確実に決めろよ!今だ囲め!そこを右だ!ジャブ!ジャブ!!転校生逃がすんじゃねぇぞ!」
「おい、相川」
「ちょっとなによもう!今いいとこ……」
「相川」
強制終了のお知らせが聞こえた。
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