都会の小さなマーメイド

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「さぁ、ご飯だよ。冷めてしまう前に食べよう。」 夕日が水平線に眩い光を反射させ、静かにオレンジ色に変わり始めようとする頃、ここにいると必ず迎えに来てくれる、今ある私をここまで育ててくれた優しいお婆ちゃん。 白髪混じりの小さなその身体からも想像が付くほどの可愛らしいその声はこの心を安堵という気持ちに導いてくれる。 片方の足を引きずり歩くその足音で姿がみなくてもすぐにお婆ちゃんだとわかるのだ。 ―私は一人じゃない。 …胸がホワッと夕日が沈みかけたオレンジ色のこの海のように温かくなった。 「ほらほら、ご飯が冷めてしまうよ。うちのお姫様はまた髪飾りを見つけたのかい?」 サラサラな髪の毛に飾った、拾ったばかりの珊瑚をみるとにこりと笑みをこちらに浮かべ、優しく手を引いてくれた。 海辺で見つけた髪飾りは私の宝物だ。 これで998個目。 家に帰ると大きなガラス瓶に入れた。 友達と呼べるような人がいなかった私は、いつも海辺で髪飾りになるような貝殻や珊瑚の破片や、時には水色や緑に輝く波で角がとれたガラスのかけらを拾い、家へと持ち帰る。 瓶を逆さまにし、中身を全部出すと一つ一つ数え、この子は今日拾ったから仲間に入れてあげてね、なんて一人遊びをしたりして。 時に床に広げ魚の形や、珊瑚の形を作り並べたりして穏やかな時間を過ごした。 今日で998個目。ただ落ちていたものを何でも拾っているわけではない。 それなりに形や色に拘っているから毎日の様に簡単に宝物を手に出来るわけではない。 友達がいないと言うより、この海が友達そのものだ。
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