都会の小さなマーメイド

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それは昔も今も変わらない、そしてこの先もきっと… 岩場に行けば潮溜まりに手を突っ込み、蟹をとったり、手のひらで海水をすくい小魚を捕まえたり、釣りだってお手の物。 お婆ちゃんにもらった黒光りする軽い竿にミミズのような餌をつけ、時には夕飯のおかずになるほどの大物の魚を釣ったりして。 それから鼻歌を歌いながら、いつも温かいご飯を作って待ってくれているお婆ちゃんが側にいる。 話では聞き、教えて貰った感情だが、寂しいなんて思う事もなければ、そんな気持ちすら正直よくわからない。 「さあこれも、食べなさい!ほら。」 大好物の煮魚を骨まで丁寧にとってくれたお婆ちゃんは茶碗につがれたご飯の上にそっと乗っけてくれた。 私も同じように丁寧に骨を取るとお婆ちゃんのご飯の上にそっと置き、ぱくりと面白可笑しく口に頬張るそんな姿に、二人は笑った。 学校に馴染めなかった私に、言葉や字の読み書き、箸の使い方や、挨拶の仕方、そうあらゆる生きていく術を教えてくれた。 時にはお伽話をしてくれて、心を穏やかな気持ちにさせてくれたり… 私にとって今が幸せそのものだ。 「久々に、お婆ちゃんのお伽話が聞きたいな…」 食事を終え、一緒に後片付けをしながら顔を見つめ覗き込むように様子を伺っていると、 「どうしようかしら…久々過ぎて忘れちゃったわ。歳のせいかしらね、ふふふ。」 わざと意地悪そうな顔し、そう言いながらも慌ててエプロンの紐を解き、 「おいで…」 と長椅子に腰を下ろし、待っていましたとばかりにお婆ちゃんはこちらに手招きをしてくれた。 「いいかい、これからゆっくり話をするとしましょうか…」 急いで温かい紅茶を二人分用意すると部屋中に甘い香りがふんわりと広がり、それをお盆にのせるとお婆ちゃんの横に腰掛けた。 そして私の髪をゆっくりと撫でながら、お伽話を話しはじめてくれた。
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