都会の小さなマーメイド

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翌朝、いつものように泳いでいたその人魚は思い出したかのように他の人魚達へ昨夜の出来事を話した。そして今夜一緒に観に行こうって。 半信半疑だった他の人魚達は、海の外には恐ろしい生き物がいるからやめましょうと言うものもいたり、人間と言う鰭の代わりに棒のようなものが二本生えた生き物に捕まると殺されてしまうと言うものもいたり、ほとんどの人魚は、初めは行く事に同意してくれなかった。中には興味を抱き、凄いと心を踊らせクルクル泳ぎ始める人魚も居たりして… 端の方で食べ終わった貝殻を集め、ネックレスを作っていた紫の鰭をもつ人魚がこう話し始めた。 「昔、人間に恋した人魚がいたらしいの。自分も二本の棒がどうしても欲しくて、同じ人間と言う生き物になりたかったとか。それでね、深く薄暗い海底の岩場を住処とするオクトパスと言う魔女にお願いをすると、自分の大事なものと引き替えに願いを叶えてくれるらしくって。そしてその人魚は、その人魚はね…」 食い入るように夢中になり、みんなで聞いている。 「それで、それで?その人魚はどうしたの?」 シーンと静まり返る海の中。ネックレスを作る事に夢中になっていたその人魚は 「それで、って?そんなの知らないわ。本当にいるのか、そのオクトパスって魔女だって見たことないもの。深く暗い海の伝説ってやつらしいの。」 そういうと作ったばかりのネックレスの出来栄えをみんなで暫く眺めていた。
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