都会の小さなマーメイド

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深く暗い海の伝説… みんなが感心する中、銀色に輝く鰭をもつ人魚だけには心に深く刻まれ、海の外の世界に関心を持つこととなった。 その夜、躊躇していた人魚達も心を決め、教えた光を求め次々と海面へ顔を出す。 パッッ。 銀色に輝く鰭をもつ人魚も続いて水面へ顔を出した。穏やかな夜の潮風は心地良い。 ―わぁ綺麗… と、突然心臓に響く重低音に続き、恐る恐る我慢をしながら片目を開いていると、今まで見たこともないほどの美しく大きな火花が夜空一面あちらこちらに散らばりゆっくりと消えていった。 ドーン、ドドーン!!! 音に合わせその火花に右腕を伸ばし、自分の手のひらをかざすとじっと見つめていた。 ―今のは、何かしら…とても綺麗だわ。珊瑚礁やイソギンチャクにも負けてないわね。 あっ…また消えちゃった。 生まれて初めて見る、海の外の世界の花火。 帰ろうという仲間達とは余所に、一人吸い込まれるように見入ってしまっていた。 気付けば静まり返る夜の海。 気分が良くなった人魚は火花を探し求め、自慢の歌声を響かせながら暗い海を泳ぎ辺りを見回していると、不思議な形をした大きな鉄の塊が浮かんでいる事に気付いた。 ところどころの窓ガラスからは光りが外に漏れていて海面にこもれる色はなんだか温かい気がした。 ―きっと大丈夫。 何を根拠にそう思ったのか、疑うこともなく、人魚はその大きな鉄の塊の周りをぐるぐると泳いで観察をはじめた。 ―これは船と言うものだわ… 海の底に沈んで魚達の住みかになっているのに、何故海の上に浮かんでいるのかしら? あれは何?鰭は付いていない。 二本の棒のような物が生えている…あっ…あれが人間… 人魚はごくりと唾を飲み込んだ。 嘘だとは思っていなかったが、聞いていた話を目の当たりに、また空いた口が塞がらない。更に興味を持ったその胸の高鳴りは止まることなく、そっと船の穴のようなところに顔を覗かせるときょろきょろ中を見回しはじめた。自分の容姿とは違う見たこともない人間に初めは驚いたが、衣を全身に纏い、耳や首に綺麗な飾りものをつけているその姿に自分と同じ女性だと気づいた。
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