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―隣にいるのは男性かしら?
顎からはウニのような黒いトゲが生えていてチクチク痛そうだわ…
「何をしているの?綺麗な歌声は君だったんだね。」
突然、声を掛けられ驚きのあまり硬直してしまった。
「僕を怖がらないで、大丈夫だから。またきみに会えるかな?」
瞳をキラキラと輝かせこちらに手を差し伸べながら話す青年。
その手に触れることなく、我に返った人魚は慌てて海の中へと戻っていった。
それは、この二人の出会いと言うものだった。
急いで戻った人魚は、それから何日も何日も考えていた。
―あの時、差し伸べてくれた手を握っていたら今が違っていたのかしら…
考えないようにすればするほど、青年の優しい笑顔が浮かんできてしまう。
こちらに向かい手を差し伸べてくれた彼…
あの眼差し…
人間が人魚を捕まえ殺してしまうなんて、そんな話、あり得ない…あんなに優しい瞳をしていたもの…この気持ちは何なのかしら…
そう、その人魚は生まれて初めて、恋と言うもの知ったのだ。
胸が締め付けられるような感覚に、目を瞑るだけで優しい顔が浮かんでは消え、浮かんでは消え…
その気持ちが募れば募るほどたまらなくもう一目だけでも見たくて、恋しくて。
心を踊らせ、透き通るような歌声で銀色に輝く鰭をひらひらとなびかせながら歌う。
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