一.蒙霧升降

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「おいおい、失敬だな。妖の全部が全部、人に危害を加えると思ってんの? まぁ、そういうことが好きな奴も中にはいるけどさ。人が他の種族を愛でたり育てたりするようにさ」  口でモゴモゴしていたものをゴクリと飲み込む。 「共存してるんだよ。知らないとこでね」  共存ねぇ。ローストビーフでかいわれを包み口に放り込む。 「で?」 「え?」 「なんでお前はオレの素性にそんな詳しいわけ?」  春海の手と口が止まる。オレは自慢の唐揚げを取る。 「えっと、それはお前の幼馴染みだからじゃダメ?」 「幼馴染みが、なぜ自分すら知らぬことを知っているのか聞いたわけだが」  失敬だなって言ったよな、さっき。 「まさか、春海に隠し事されてるとはな……」  流れるように斜め右下を見る。好物の唐揚げから目を背けるように。 「うーー」  困ってる困ってる。 「降参!」  春海が叫んで立ち上がる。  行儀、良くないぞ。 「オレ、狼男なんだわ」 「……狼?」  化けてんの?  まぁいいから座れとジェスチャーする。自分でも、意外に冷静だな自分、と思う。  てっきり同じ鬼かと思ったが、狼とは。よく漫画やアニメである光景を頭に浮かべる。 「ぼふん、とか言って耳とか尻尾とか出せねぇの?」 「うむ、それは高度な化け形だから、めんどくさい。可愛いからとかそんなのは無視だ!」  そしてまた食べ始める。     
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