9人が本棚に入れています
本棚に追加
自分から何かが飛び出していったということだけわかった。
幻聴かと耳を疑い、目の錯覚かと瞬きをしたが、どうやら幻ではないらしい。
そこには腰まで髪のある女性が、自分を護るように両手を広げて、襲い来る彼をキッと睨みつけていた。
だが、その身体は透けている。
レキがハッとして留まる。肉を引き裂こうとしていた爪は宙を切った。
「こ、暦……?」
彼が名を呼ぶと、彼女はフワッと風に溶けるように消えてしまった。
今の彼女が暦?
レキは全身から力が向けたように跪き、時間が止まってしまったように全く動かなくなった。
その隙にそっと彼から離れ、春海に近づき助け起こす。
「なんか効いたみたいだね」
「はぁー、心臓に悪い」
「悪い。……あれなんだったんだろう。霊魂?」
春海も先ほど彼女が現れた辺りを見つめている。
「……いや、霊が出たんじゃなくて、あれは念なんだと思うよ。彼女が最期に遺した念が発動したんだ」
母は祓師でもあったから、我が子を父が手に掛けようとした時に発動するよう念を掛けておいたんだろうか。
「悲しいことは、それを暦が予測していたってことだ。そんな想いを遺したまま死んでしまったことだよ……」
最初のコメントを投稿しよう!