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レキの瞑られた目から涙が零れる。
やっぱり、そうだよな。オレの母親だもんな。最強の鬼を愛してしまう女性だし。彼女は子供のことだけでなく、彼のことも心配だったんだ。
今のは、息子であるオレの呼び掛けに、父であるレキが答えることがあったら発動する念だったのだろう。
春海の元に戻って、肩を貸す。
「もうあの人も大丈夫だよ」
「他人行儀だな」
「当たり前だろ。いきなり出て来た父親にそうそう懐く奴がいるか」
だが、唯一残った肉親なのだから、ずっとクサっていてほしくない。彼の愛情を欲している子もいるのだから。
跪いたまま自分の中に消えた女性を抱き締めるように自らの身を抱えた状態で固まる彼を振り返る。
母さん、これからは彼の傍についててあげて……。
「良かったよ。ほんとに良かった」
春海が噛み締めるように言う。彼の身体はボロボロだった。人の心配してる場合ではないだろ。
「無茶しやがって。治癒力高いからとかなめてんだろ。さっさと帰るぞ」
「……」
春海はなぜか薄っすらとどこか儚げな笑みを浮かべた。
「?」
「セツ、あっちに向かってくれるか」
春海が指した方へ肩を貸しながら進む。
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