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この神殿のような建物は少し小高い丘にあったようで、屋根のないところに出ると周りがよく見渡せた。
辺りはどちらかと言えば枯れただだっ広いだけの大地で、この神殿のような建物だけぽつんとあるようだった。
「帰り道あっちか?」
「いや、下を見るといい」
言われた通り丘の麓を見下ろすと、眼下にはたくさんの妖たちがこっちを見ていた。思わぬ光景に呆気に取られていると、春海が突如大声を上げる。
「見ていたか、お前たち! セツがレキを倒したんだっ!!」
しかもぎょっとする内容だ。
何言ってるんだよ、倒したわけじゃない。それは春海もわかってるはずだ。
だが眼下の妖たちはその言葉に呼応するように歓声を上げる。
「倒したー!」
「セツが酒呑童子をやったぞ!」
彼らはことの成り行きを見ていたのか。それでも母である暦の姿が見えていなかったというのか。力で負かせたとみえたというのか。
「ちょっ! それはちがう……」
歓喜に満ちている眼下の者たちへ弁解しようとしたら春海がそれを制した。
「いや、いいんだ」
「なんでだ、春海」
「ああ、確かにオレにはみえたよ、暦の姿がね。でも、ここはみんなのためにこのままお前が倒したことにしてくれ」
「……どういうことだ?」
ニコニコとみんなの方を見ていて、オレに目を合わせようとしない。
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