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春海があの不思議な空間を創る。妖たちがみな使う術だ。
「次の王にとでも言われる前に、お前は人間界に帰れ」
「春海……」
「向かうべき場所を知っていれば迷わないでいけるんだ。自分の家を強く思い浮かべればいい」
「お前は、って春海は帰らないのか?」
帰らないのかという問いに答えようとしない。
肩をドンと押される。
「ちょ、おいっ!」
そのまま吸い込まれるように明るい空間に入ってしまう。また、堕ちていくような浮いているような感覚に取り込まれる。
春海、帰らないつもりなのか?
「さよなら、セツ」
妖界と人間界を結ぶ空間を閉じる。
丘の麓で喜ぶ仲間たちの姿を見ながら、これで良かったんだと思う。自分に言い聞かせたわけじゃあない。
この親子のいざこざを利用して、ブラウンズヴィル・オーガから自治権を取り戻そうと、他種族の長たちに掛け合ったのは他でもなく自分だった。
妖でいう成人、まともに戦える年齢になるまでセツを護り、その歳月を殆ど抜け殻状態で過ごし弱体化したレキと会わせる。暦の念は予想外だったが、セツは不死である鬼を殺す力を持つダンピールだ。もともと勝ち目があった。
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