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そこで一気に現実に引き戻された。
「なぁ、ほんとに……?」
兄さんが立ち止まり、振り返らずに答える。
「ああ……」
ほんとに小雪はもうこの世にいないのか?
ほんとに死んだというのか?
誰か、嘘だと言ってくれ。誰か、これは現実じゃないと起こしてくれ。なぁ、誰か。
気付いたら家を飛び出していた。
小雪の家に行くんだ。そしたら小雪がびっくりした顔で迎えてくれる。変な夢みたね、と慰めてくれる。兄さんの許嫁というのも夢だよ、と笑い飛ばしてくれる。そんなわけない、ずっといっしょだよ、ってキスするんだ。
小雪の家はうちよりも広くない普通の一軒家だ。おばさんが花好きで凝った庭をつくっていて、玄関では花咲き誇るプランターに埋もれるこびとやうさぎの置物が出迎える。
チャイムを押しても反応が無かった。知ってる、この家はチャイムの音が小さいから気付かないんだ。
玄関の扉が開いていたので、勝手に入り込む。
「こんばんは! おばさーん、小雪いるー?」
玄関先で声をあげながら、靴を脱いであがってしまう。本当に留守だったらマズいが、鍵も掛けずにこんな時間に誰もいないなんて考えられない。
居間の前まできて耳が、押し殺すような、呻くような泣き声を捉えた。
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