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もう一度、もう一度だけでいいんだ。話がしたいんだよ。
せめて別れを言わせて欲しい。
好きだと伝えたい。
「小雪に逢いたいんだっ!」
兄さんがガッと両肩を掴んでくる。兄さんの顔がこんな近いことあっただろうか。
「清明、小雪の魂はもうこの世には無いんだ」
「……え?」
魂がもうない?
「妖に殺された人間は怨霊になるか、妖に利用される傾向が高いといわれてる。特に武中と因縁深い怨霊崇徳上皇にな……。そのまま放っておけば悲惨な末路を迎える。だからそうなる前に送るんだ。小雪の場合も、すでにその場で魂送を行ってる。明日執り行う葬式は形だけに過ぎない」
取り憑いていた何かが抜けるように全身から力が無くなると、震えが止まった。
兄さんが立ち上がり、無惨な儀式の跡を見下ろす。
「反魂の儀が秘術とされるのは、成功した例がないからだ。創り出した西行法師ですら巧くいかなかったから封じたんだ。誰も望まなかったわけじゃない、寧ろみな望んでることだ」
そうか。小雪の両親も、母さんも兄さんも本当は望んでる。それを今になって気付かされる。
「不可能なんだよ。一度死んだ人間が蘇ることはないんだ……」
オレはなにをしようとしたんだ。
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