一.師匠の家で《グランドマスターズホーム》

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 苦しみながらも何度も丙に向かって飛んでくるが、丙は唱えながらもうまいことひらりと躱す。  そうか、丙ではなく丙が左手に抱える囮の人形に向かってきているんだ。姑獲鳥はあの人形を自分の赤ん坊だと思っているのだろうか。 『世の中に』  姑獲鳥がふらつきながらもまた上昇する。  と思えたが、急に空中でがくっと力が抜けるようにして落っこちてきた。  予想外の突然の動きに丙も気付いて避けたが、なぜかぐらりとよろめいた。抱えていた人形も落ちた。  人形の落ちた彼の足元を見ると、茂みで隠れた溝に片足を落としたようだ。 「丙!」  眼光だけで来るなと静止させられる。 『おなじかげにて』  地に落ちた姑獲鳥が呻く。 『すめる月かな』  丙がパンと刀を鞘に納める。  姑獲鳥がオギャーと鳴いたと思うと、スゥっと透けるようにして消えた。  無事祓えたようだ。  すぐに丙に駆け寄る。 「大丈夫か?」 「問題ない」  溝から足をあげて、囮の人形を拾おうとして蹌踉めく。 「っ……」 「歩くのキツそうだな」  肩を貸して家まで送ってやることにした。 「祓いとしては危なげなかったけど、一人だとやっぱ危なくないか?」 「……いつもはこんなことない」 「なに? オレがいたからそれに気を取られたとか言いたいの!?」 「そうかもしれない」     
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