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苦しみながらも何度も丙に向かって飛んでくるが、丙は唱えながらもうまいことひらりと躱す。
そうか、丙ではなく丙が左手に抱える囮の人形に向かってきているんだ。姑獲鳥はあの人形を自分の赤ん坊だと思っているのだろうか。
『世の中に』
姑獲鳥がふらつきながらもまた上昇する。
と思えたが、急に空中でがくっと力が抜けるようにして落っこちてきた。
予想外の突然の動きに丙も気付いて避けたが、なぜかぐらりとよろめいた。抱えていた人形も落ちた。
人形の落ちた彼の足元を見ると、茂みで隠れた溝に片足を落としたようだ。
「丙!」
眼光だけで来るなと静止させられる。
『おなじかげにて』
地に落ちた姑獲鳥が呻く。
『すめる月かな』
丙がパンと刀を鞘に納める。
姑獲鳥がオギャーと鳴いたと思うと、スゥっと透けるようにして消えた。
無事祓えたようだ。
すぐに丙に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「問題ない」
溝から足をあげて、囮の人形を拾おうとして蹌踉めく。
「っ……」
「歩くのキツそうだな」
肩を貸して家まで送ってやることにした。
「祓いとしては危なげなかったけど、一人だとやっぱ危なくないか?」
「……いつもはこんなことない」
「なに? オレがいたからそれに気を取られたとか言いたいの!?」
「そうかもしれない」
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