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見つからないうちに、人間界の家に戻ろうとした矢先。
「あ」
神殿の奥にいた人と目があった気がする。人ではなく妖だが。
近づいて来るその人は見覚えのある風貌だった。
一番会いたくないような会いたいような人の気がする。
「……」
その人も途中で立ち止まる。
間違いない、この間までオレの命を狙っていた父レキ、その人だ。
酒呑童子レキは妖界最強の鬼。
親子である以上、自分が半分妖である以上、また対峙することはなくはないと思ってはいたが、こんな近いうちにその日がやってくるとは思いもせず、心の準備というものが整っていない。
近くも遠くもない絶妙な距離で、互いにどうしたらいいのか固まってしまう。
「お兄ちゃん!」
彼の後ろから驚いたような声をあげて、レキを押しのけるようにして女の子が駆けてくる。異母妹の立夏だ。
「どうしてこっちに!?」
心の底から助かった、と思ってしまう。彼女とは少し気安い関係だ。
「ちょっとトラブルがあってさ」
レキも恐る恐ると近寄ってきた。
「セツ、くん……」
なにか話したいようで口をパクパク開くが、言葉が出てこない様子だ。
うーやっぱ気まずいよなー。
「ちょっと、パパ! あたしそんな情けないパパ嫌だからやめてよ!」
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