一.師匠の家で《グランドマスターズホーム》

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 思わず身体をひく。 「もう祓師じゃないから安心しろ」  それでも、あまりよく思われてなかったのかもしれない。  勝手に相談相手にしていたが、妖から相談されるなんていい迷惑だったかもしれない。  余程自分が困った顔でも晒したのだろう、先生は慌てるように手の平をみせて落ち着けと示す。 「いや、誤解すんなよ。お前も妖だから祓われるべきだ、とは思ってないからな。ただ、穏健派の考え方は曖昧だろ? 悪さをしない妖は祓わない、って。善悪なんて結局自分の物差しで測ってのことだからな」  それは確かに納得いく話だった。丙は人に害をなした妖は祓わなければいけないと言っていたけど、その害も受ける人によって変わってくる。  害を受けた人が困っていると言えば祓い、困っていなかったら見逃す。ならば、ある人は困っていて、ある人は受け入れている、そんな妖だったらどうだろう。  それは野良猫の扱いのように判断が難しい。  同じ住宅街に、手入れした庭をトイレにする猫を嫌う者もいれば、遊びに来てくれたと喜ぶ猫好きな者もいる。意見は食い違っている。  困っているからと殺処分を迫れば、猫好きは断固反対するだろう。     
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