二.狼の円舞曲《ワルツ》

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 行く先に待つように立っている者たちは、見覚えのある格好をしていた。黒い袴に黒い外套。そう、丙が祓いの仕事をする時の格好だ。 「おや、鬼だけじゃないようだ」  その聞いたことのある声にゾッとした。  本能的にマズいと思った。 「春海! 赤口さんと立夏連れて戻れ!」 「狙いはセツだろ! セツが戻るんだ!」  間髪入れずに返される。 「え、なに? 喧嘩?」  赤口さんがオレたちと待ち伏せしていた者たちを見比べる。  喧嘩なんて生易しいもんじゃない。恐らく彼らは鬼であるオレを祓おうと待っていたのだ。  はっきり見たわけではないから口にはしないが、ほぼ間違いなく、丙の兄とその連れだ。一人女の子がいるので、もしかしたらあれが丙の妹かもしれない。 「甲様、人間が混じってるようです」 「構わないんじゃない? 妖と連れ合うなんてすでに人外でしょう? ねぇ甲兄さま」 「巽は賢いね」 「はい、それもそうですね」  勝手なことを話している。赤口さんを巻き込むわけにはいかない。  立夏も目を釣り上げる。 「なによ、こいつら」 「祓師だ。手ぇ出すなよ」  やはり祓師と対峙することになってしまった。丙の家に行ったのは迂闊だった。  逃げられるならばそうしたいが、逃げ切れるだろうか。闘うにも赤口さんの前では難しい。  祓師の一人が何かを投げ付けてくる。     
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