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二.天地始粛
次の日、自分は当たり前のように学校に来ていた。
元の姿に戻った今、昨晩のことが夢にも思えた。
だがそんな甘い考えは現実では通用しないことがわかり、早朝から打ちのめされた。
通学路に昨夕の出来事の紛うことなき証が残されていたからだ。
崩れた外壁に折れたカーブミラー、そしてアスファルトの下の土が剥き出しになってみえている。
そこを通り掛かる時、春海は夜中に車でも突っ込んだのかね、なんて呑気に言ってのけたが、そんな白々しいことよく言えたものだなと睨んでやる。
妖の世界では成人となる十六歳で、妖の力が呼び覚まされ身体が変幻し、さらに命を狙われているときた。
いっそ夢であればよかったのに。溜め息が溢れるように出てしまう。
見た目は元に戻ったが、昨日までとは明らかになにかが違う。なにかとは言葉に言い表せないが、いつでもあの姿になれるような気がする。
自分は、このまま人間として生きていいのだろうか。
そんなことを一日中考えてばかりいたので、少しぼうっとしていたのだろう。
「えっ?」
階段の登り終わりかけの所で、ドン、という軽い衝撃を肩に受けて、バランスを崩した。
落ちるっ!
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