二.狼の円舞曲《ワルツ》

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 憎しみの感情に寄って力を呼び覚ますと、その憎しみが増幅し、それに振り回されるから不愉快だ。  だが、気分は申し分ない。  人の感情と鬼の感情が入り混じり、自分の内側で矛盾した葛藤をする。  どちらも自分なのだ。  だけど、よりによって丙の目の前で。  だが、立夏を傷付ける奴は許されない。  自分ではもう止められない。 「なんだ、人間の修行ばっかしてると思えば、しっかり妖力も磨いていたのだな」  九尾はやはり他人事のが向いているようだ。  儀鳳がふむふむと感心している。 「甲兄さま! あいつ、あたしの呪縛が効いてないっ!」  人間の小娘が叫ぶ。  鬼のくせに、人間の血が彼らの術を弾くのだ。 「うぉぉぉー」  祓師の一人が無謀にも立ち向かって来る。  丙のような妖気の刃は持っていない。あれは神社で神主が振るう祓串だ。  それを振って何かを唱えようとしているがトロい。  まるで祓師の動きが読めるようだ。  祓いについて学んだかいがあった。  こんなつもりで学んだわけではない。  祓師の持った棒についた紙を散らせる。もうただの棒きれだ。  それでも彼らは戦う気を失わない。  絶対オレには敵わないのに。  呪縛を解き放てばみんな楽に動けるようになる。そうしたら気付いてくれるかもしれない。     
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