二.狼の円舞曲《ワルツ》

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 春海や儀鳳の顔がこちらを見上げる。漸く頭をあげられたわけか。 「私の鏡っ!!」  悲鳴のような叫びをあげて巽が、突風で舞い上がる鏡に向かう。  突っ込んできたら風に巻き込まれるだろう。彼女にはもう鏡しか見えていない。  丙の妹だ、殺してはいけない。  オレの妹を、祓おうとした。 「巽やめろっ!」  丙の声は彼女には届かない。  翼で一度羽ばたいて風を止めてやると、舞い上がった鏡が地面に落下していく。  パンッと破裂音がして鏡は割れた。 「あぁぁっ!」  少女は割れた鏡に縋り付くようにして泣き出した。  これでもう呪縛はつくれない。 「甲様、ここは引きましょう」  判断の早い祓師の一人が言うと、甲は無言で応じる。流石に彼も暫く動けまい。  動ける祓師二人が気絶した祓師を担ぎ、甲に肩を貸し、巽を引き起こし去って行く。  あとを追う必要はないだろう。  安堵した瞬間、フッと力が抜ける。そんなに高い位置まで飛んでいなかったので落ちた衝撃さえなかったが、そのままアスファルトにぺたりと座ってしまう。 「セツ!」 「お兄ちゃん!」  当然春海が心配して駆け寄る。 「だいじょぶ、ちょっと疲れただけ」  鬼の姿になった時は、二人分の精神のやり取りをしているようで正直しんどい。     
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