二.狼の円舞曲《ワルツ》

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 鬼に精神を乗っ取られるならばまだマシかもしれないが、残念ながら鬼も自分なので、やっていることも話したこともはっきり覚えている。  だから、丙に目を合わせられない。 「ごめん、丙……」 「仕方ない」  いつもと変わらない声で言う。  仕方が無いとはいえ結局、祓師はほぼ全員戦闘不能とさせてしまった。人に害を為したのだ。  罪悪感を感じながらも、心の奥底では鬼のオレに喧嘩を売るからだとも思ってしまう。  気付くと儀鳳はいつの間にか姿を消していた。  赤口さんは、丙が乗ってきた車で家まで送り届けてもらうことにした。  春海は気絶した赤口さんを起こすと、あれは他校の生徒に絡まれ、投げられたのは花火だと誤魔化した。あのあとすぐに一般人が通りかかり事なきを得たと説明すると、戸惑いながらも納得してくれたようだった。  翌週の放課後、春海は赤口さんを部室棟裏に呼び出した。  当然この前の逆で、オレは茂みに隠れて盗み聴きする。  春海が若干照れくさそうに切り出す。 「ごめんね、オレ実はさ……」  おいおい、まさか!?  狼男だとバラすのかと思いきや。 「セツの料理じゃないと生きていけないんだよね」 「え???」  はぁ!?  赤口さんは目を白黒させている。 「だから赤口さんと付き合うのは難しいと思うんだ、ごめんね」  彼女は顔を覆って逃げるようにして去ってしまう。     
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