三.街中の歌姫《ディーバ》

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三.街中の歌姫《ディーバ》

「ねぇ、そこの君。このへんて詳しい?」  その声に振り向くと、ちょっとドギツい格好の男性とも女性とも判からない人が立っていた。  当然ギョッとしたが、顔に出さないように問い掛けにお答えする。 「ひとの家はわからないけど、ある程度ならわかりますよ」 「スーパーわかる? こう丸っこい赤い金魚がマークの」 「ああ、わかりますわかります。というか今から行くのでカープなら」  そこは家から一番近いスーパーなので常連だ。  その人は明らかに見た目は怪しいが、なんだか怪し過ぎて逆に警戒するのもおかしくなる。 「あら、ホント! じゃあ着いてっちゃお。もぅ、バスで寝過ごして一つ先の停留所で降りたんだけど、迷っちゃって。数十分このへんウロウロしちゃったわよぉ。素直に大通りを辿れば良かったわぁ」  確かに田舎道は真っすぐ行ってるつもりが若干斜めだったり、似たような交差点が多いので迷いやすい。  だからといってバスが通る道は大通りと言っても、道幅が狭く車がすれ違うのもギリギリで、車の通りも多く歩行者は歩きにくい。 「あのスーパー、今日何がお買い得?」 「豚肉が半額なのと、千円以上買えばタマゴが九十九円です」     
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