三.街中の歌姫《ディーバ》

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「あら、そぉー、あたしも後で行こうかしら」 「タマゴは先着だったんで行くなら早めがいいですよ」 「ほんとぉーこのまま行っちゃおうかしら」  完全に主婦の会話だ。 「ねぇ、貴方妖?」  ドキッとした。まさか道を尋ねてきた人の口から、妖という言葉が出るなんて。 「え? あやか? そんな名前じゃないですよ。あ、もしかしてナンパですか? すいませんオレそっちの趣味は……」 「なんか必死ね」  ジト目で見つめられる。 「うん、ごめんなさい。勘違いみたいだからいいの。ちょっと薄っすら妖気を感じたんだけど、貴方の周りにいる人かもしれないわね。気をつけなさい」 「はぁ……?」 「ほら、貴方おいしそうだから」  先程とは全く違う声色でそう言い、ペロッと唇を舐める。  ゾクッ。 「あ、ここからはわかるわ! ありがとねっ、また会いましょ」 「あんた、人食うのか?」  笑顔で手を振りかけたその人を、思わず呼び止めていた。  その人は真顔になる。 「食うって言ったらどうするの?」 「止める」  自分に祓えるかはわからない。けれど見逃すわけにはいかない。 「……」 「……」 「ふふっ、じょうだんよぅ」 「え?」  大層可笑しそうにクスクスと笑われる。 「……ですか。なら、いんですけど」     
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