三.街中の歌姫《ディーバ》

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「またまたーそんなわけないじゃなーい妖なんだからぁ」 「いや、ホントですって」  一切鯖読んでないから。妖だとも認めてない。 「まぁいいから来なさいよぉ」  半ば引き摺られるようにして連れて行かれる。 「あたしだってずっと人間界にいたわけじゃないのよぅ」  まだお店の空いていない時間から、彼女の話を徒然と聞かされている。妖界での暮らしから人間界での今の生活まで、分かったことはどちらの世界でもモテているらしいということだ。  彼とも彼女とも表現しにくいが、マヤと名乗ったので、取り敢えず彼女とさせてもらう。多少居心地悪いが無視だ。  お店が開店すると、早速数人のお客さんが入ってきたので、結構繁盛しているようだ。  マヤさんはこの店のママだというのに、開店の準備は従業員に任せきりでオレへの話に夢中だ。  従業員も従業員でこの状況は慣れているようで、当たり前のように着々と準備を終わらせお店を開けた。  お店がほぼほぼ満席となる頃に、歌が聞こえ出した。  店内にしっとりとした歌声が響く。  ちいさなステージに細身の女性がぼわりと浮き上がる。  先ほどまで思い思いに喋っていたお客さんたちが静まり、その歌声に聞き入っている。マヤさんの弾丸トークもそこで漸く収まる。     
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