三.街中の歌姫《ディーバ》

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 切ない感じの歌声は、胸の奥の深い深いところまで入ってくるようだ。  一曲歌い終わると店中が拍手喝采。 「うちの歌姫よ」  マヤさんが誇らし気に言う。 「あの子のお陰で常連さんが増えたのよ」 「もしかして彼女も妖?」 「そうよ」  マヤさんが妖だと言われればその異様とも思える格好から、やっぱりね、くらいの気持ちで受け止められるが、あの歌姫までもそうだと言われると、この世界どのくらい妖が潜んでいるんだとうすら怖くなる。 「あの子、ずっと妖界で歌ってたんだけど、あの美しい声故に自分の者にしたいって輩に狙われてね、人間界に逃げて来るしかなかったの」  どこか儚げな外見が、そんな過去と相まって余計に惹きたってみえる。 「すっごい美人だな」 「あら、好み? まぁ、あの程度なら妖界にはたくさんいるわよ。それに残念なことに愛想がないのよねー、あの子。それで絶対損してるわぁ」  クールビューティー的な感じか。 「妖界ではね、貴方みたいな美しい妖気をもった者がモテるのよ」 「オレ?」 「とてもおいしそう」  また違う声色で囁かれて、背筋がゾクッとする。 「ぃやぁねぇー冗談よー」  そろそろ冗談では済まない。 「あの子と話してみたい?」 「え、いいの?」  思わず飛びついた。     
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