三.街中の歌姫《ディーバ》

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 どうしてだろう、なぜか気になるのだ。 「貴方は可愛いから特別よ」  投げチュされて寒気を起こす。貴方は可愛くないから特別ではありません……。  二曲目が終わったあとちいさなステージから降りた彼女に、マヤさんが話し掛けると、グラスを持ってこちらに近付いて来た。 「ママのタイプの子って君?」 「う、たぶん」  どんな紹介の仕方だ! 「ふぅん」 「確かに気品があって皇子様みたい」 「え、そう?」  思いの外第一印象良いな。 「でもちょっと犬くさい」 「……」  春海め。 「何か用?」  話してみたいかと問われて反射で頷いたようなもので特別用があったわけじゃないが、人間界で暮らす妖に興味はあった。 「人間界に逃げて来るしかなかったって聞いて、帰りたいのかなって」 「そうね、向こうが気にならなくもないわ。あの時はどうしようもなかったから、中途半端にしてきたことも沢山ある。でも、ここでの生活も気に入ってる」 「そっか……」  心残りはあるのだろう、彼女は何かを思い出すように少し切なげに目を細めた。 「君は近々帰るの?」 「え、なんで?」 「自分が妖界のことが気になるから、私に聞いたんでしょ?」  それは鋭いな。     
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