三.街中の歌姫《ディーバ》

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 確かに向こうが気になる。いや、妖という存在すべてに関することを自分は知りたいと思っている。  まだ、自分は知らないことばかりだ。 「ねぇ君、種族はなんなの? はじめは犬っぽいにおいがあった気がしたけど、今はしない。なんだろう、なんか懐かしいような……」 「たぶん、嫌われ者だから言いたくない」  犬だと誤魔化してしまえば良かったのかもしれない。 「なにそれ、猿とか? 狐?」 「いや」  猿や狐は嫌われ者なのかな。 「……え」  勘付いたようで彼女の顔色が変わる。  マズったな。 「君、鬼!?」  彼女のグラスが床に落ち、パンッと割れる。  何事かと店内がざわめいた。  彼女はわなわなと身を震わせている。 「だ、大丈夫?」 「近付かないで!!」  うわ、すごい嫌われようだな。怖がられているのか? 「鬼が私を追いやった!」  え……。 「帰れ!」  彼女が叫ぶ。  騒ぎに気付き、マヤさんが寄ってくる。 「なになに! どうしたの!?」 「帰れー!」 「文(ふみ)ー? 落ち着きなさいよー」  マヤさんが彼女をドウドウと宥め、こちらを向く。 「貴方、呼び寄せておいてアレだけど、今日は帰りなさい」 「はい……」  そういえば無理やりここに連れて来られたんだった。夕飯の買い出しに行けてない。     
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