三.街中の歌姫《ディーバ》

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 クールビューティな歌姫を取り乱させた奴だと白い目で見られ、居心地が悪いのでそそくさと退散させてもらうことにしよう。  オレが去ったあと、マヤさんが荒い呼吸をする歌姫に尋ねる。 「落ち着いて、文。何があったのよぅ」 「あいつ、鬼だって」  マヤさんは目をひん剥いて驚く。 「おぉにぃ!? まさか! あんなちっぽけな妖気で。妖界のことなんにも知らないって……」  途中でハッとする。 「違うわ、あのコ、半妖よ。例の酒呑童子の子供よ」 「……あいつが?」  いつもより多少静かな夕食の時間を迎えていた。 「今日の夕飯できあいばっかだね」  春海がぽつりと呟く。  食卓にはパックで売られている中華サラダにレンジで温めただけの春巻き、素を使った麻婆豆腐、食後には冷凍ごま団子を用意しており、中華料理が並ぶ。 「……なんか文句でも?」 「い、いやっ、そーゆーことじゃないけど、珍しいかなって」  慌てて繕う姿は、まるで妻の作った夕飯に文句いってイライラを増させてしまった旦那のようだ。 「ちょっとな……」  結局あの後スーパーに急いだがタマゴは買えず、豚肉もイマイチおいしそうではなかったのでやめた。  豚キムチか味噌豚炒めか、炒飯とか卵スープも考えていたのだが、作る気も失せた。 「……セツ、ホントに料理やめるの?」 「え?」     
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