三.街中の歌姫《ディーバ》

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 春海が真顔で聞いてくる。一瞬なにを言ったのかわからなかったくらい通常とは違うショボくれた声だった。  そういえば箸の進みも遅い。 「あ、違う違う!」  この間お前の弁当作らない宣言をしたばかりだ。  今日少しサボったのを、彼はそれと混同したのだ。もうお前の飯を作る気はないという意だと捉えてしまったのだろう。  料理は正直好きだ。何かを生み出すのが楽しいのだ。春海が苦手なのもあって料理当番はいつも自分だが、それ以外の家事は率先してやってくれるし、なんでも旨そうに食べてくれるので文句はない。  ぶっちゃけ、弁当も作らない気はないんだ。たまにキャラ弁作ってやった時、廊下や校庭を駆けて誰彼構わず自慢して回ったり、じっと見つめて待てと言われたかのようになかなか手を付けられなかったり、とそういう反応が犬っぽくて面白い。作った者としては嬉しくないわけがない。 「ごめん、今日はサボっただけ」 「ホントか?」 「マジだって」 「そっか! なら全然いいんだよ! そうだよな、たまにはサボりたいよな。ゴメンな料理下手で、作ってあげたいのは山々なんだけど」 「いや、そこは期待してないから」 「バッサリだな……」 「明日なに食べたい?」 「えっ! え、えっとね! すき焼き! か、牛丼!」     
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