三.街中の歌姫《ディーバ》

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 歓喜して慌ててながら言った料理に思わず噴き出して笑う。 「なにそれ、敢えて簡単なの言ってない?」 「そかな? じゃあ、チキンソテー!」 「それも簡単だよ、春海。焼くだけじゃん」 「そーかなー? 皮カリカリにすんだぞ?」  たぶん、マヤさんや歌姫に逢ったことを、春海には話した方がいいのかもしれない。  だが、今は話す気になれなかった。  春海もなにか察しているのだろうが、オレが話すまで聞かないつもりのようだ。かなり気になってはいるだろうが。 「そういえば明日、丙の親父と会うんだろ?」 「うん」  丙から父に会ってもらえないかという内容のメールがきたのだ。武中の祓師たちが祓いにきた件で直接謝罪したいとのことだ。  立ち向かってしまったこちらとしては謝られても少し困るのだが、無下にするわけにもいかない。 「オレが着いて行ったらマズいのかな?」 「マズいわけじゃないと思うけど、わざわざお店予約してもらったみたいだから、今から追加は悪いだろ」  丙の家だとこの間のこともあるので、外で会うことになっている。 「丙め、オレも元から数に入れておけよ」  正直春海も一緒だったら心強いことこの上ないが、丙の話だと親父さんも穏健派だから心配することはないだろう。丙もいることだし。     
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