Extra edition2 和室十畳

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 小学生の時、一個上にしては春海は身体が大きく目立っていた。自分も一年経てば春海のようになれるのかと思ったが、全く追い付くことは無かった。 「まぁ、とっくに成人してんだろ?」 「とっくにではないよ」  諦め悪いな、春海は。  目覚めると丙が洗面所に入っていくのが見えた。  彼が顔をタオルで拭きながら出て来たところで声を掛ける。 「おー、おはよー」 「おはよう。起こしたか?」 「いや、温泉行きたかったからちょうどいい」 「そうか。オレも行く」  狼と昨晩呑んだ先生は朝起きられず、置いて行くことにする。  風呂にはまだ他の客もなく、まるで貸切のようだ。  湯気が視界を白く覆う。 「朝風呂いいよなー」 「よく温泉行くのか?」 「昔はじいちゃんとばあちゃんとよく行ったよ。春海のじいちゃんも旅行好きだったし。最近は全然だったなー」  春海と二人で旅行はしないだろう。  オレも温泉は好きだから、一人で旅してみるのもいいかもしれない。 「丙も慣れてる感じだけど、よく行くのか?」 「妖が出て悪さを働くのは、こういった場所が多いからな」 「そっかー」  ちゃぽんと口まで沈んでみる。  んー確かに、田舎の方の温泉街のような古い町並みが残る場所は、なにか出そうと言えば出そう。古よりある伝承や先祖からの言い伝えも影響して、その土地に住む人も妖の仕業ではなかろうかと考えやすいだろう。     
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