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三.朔風払葉
「ねぇ、春ちゃん」
「ん?」
暦がいつもの調子で呼ぶ。
「この子を一人にさせないでね」
「……」
その言葉に泣きそうになって下を向く。
「オレ嫌だな。ずっと今のままでいられたらいいのに」
「今のまま?」
「あいつを好きな君がいて、君が大切な奴がいて、そんな二人を好きなオレがいて、こいつが生まれてくるのを楽しみにしてる……」
君が死ななければそれが続けられるのに。でも、君は死ぬと言うんだ。
暦は下唇の先に人差し指をおいて少し考える。
「んーそうねー、一見幸せそうね」
くるりと目を回し、お腹に手をやる。
「でもあたしはヤダな。この子に早く逢いたいもの。逢って直接言ってやるの! あたしの中で暴れるなー! ごちゃごちゃ喋るな! ぜ~んぶこの世に生まれてきてから存分にやりなさい!! ってね!」
オレはそんな君が好きだったよ。
だから、彼を一人にさせやしない。
「最近野良猫が家の周辺彷徨いてるんだよね」
「へぇ、ゴミ出し気を付けなきゃな」
二人で夕飯の片付けをしながら世間話。自分が皿洗いをして、春海が布巾で拭いて棚にしまう。
「それがちょっと普通じゃない猫なんだけど、春海心当たりある?」
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