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「オレは遭遇率高いのに、春海が全然見てないってのもおかしくない? やっぱ猫に嫌われてんの?」
「やっぱってなんだ、やっぱって。オレ、猫とは相性悪くないんだけどなぁ。確かにオレが一切見てないってのは不思議だな」
玄関をそっと出て前の通りを覗く。
街灯の下に白い塊が見えた。
「あ、ほら! あの子、あの子」
小声で指を差す。
「ん、あれは」
春海が近づいて行く。白猫がビクッと立ち上がり構えた。
「閏じゃん」
「ハルミ!」
春海が話かけると猫が答えた。
「う、わぁ!」
猫が喋った……。鳴き声なんかじゃない。明らかに人語を使った。春海の名前を呼んだ。
「なに今更驚いてんの?」
わははと笑われる。
確かにずっと側にいた奴が狼男だったり、龍になるらしい人間がいたり、自分が鬼に変化したりして、今までの人生観ががらりと変わるようなことがこの頃怒涛の如く起きてはいる。当たり前だと思っていた世界が当たり前じゃないんだと、だいぶ耐性がついたとは思う。
だが、目の前の小さな猫が、いきなり人間の言葉を話し出したら驚くに決まってる。
「閏、どうしたんだ、こんなとこで?」
「……」
猫は黙ったまま固まってる。
「春海、家入ってもらったら。知り合いなんだろ?」
家の前で猫と喋ってるなんてご近所に見られたくないしな。
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