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だが、誰も教えてはくれなかったし、聞こうとも思わなかった。
死んだものだとばかり思っていたが、まさか自分の命を狙う主犯格の名として知るとは……。
「なんでオレを?」
「……あんたが母親を殺したからでしょ」
その言葉を理解するより先に背後でガシャンと音がして、振り向くと春海が麦茶の入ったコップを落としていた。
「閏!!」
鋭く怒鳴って、凄い形相で閏に詰め寄り、首に巻かれたリボンを掴み上げる。
睨みつけたまま沈黙する。
「し、知らない方が可哀想でしょ」
「それはお前の理屈だ。何も知らないお前が言っていいことだとでも思ってるのか?」
今まで聞いたこともないような、今にも殴りつけそうなほど切羽詰まった声で閏に迫る。犬の怒ってる時の唸り声みたいだ。
緊迫した空気の中、閏の言ったことを頭の中で反芻して整理する。
「オレが、母親を殺してるから、父親に命を狙われてるっていうのか?」
春海がハッとしたように掴んでいたリボンを放しオレを見る。
「春海、そういうことなのか?」
春海は悔しそうに顔を歪めた。
「まだ、知ってほしくなかった……」
そんなに気を遣うな。お前がそんな顔するほどショックは受けていないんだから。
「でも、そうじゃないんだ! セツが殺したわけじゃない!」
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