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冷蔵庫を開けて麦茶のポットを出す。それはキャラもののポットで、春海が気に入って買ってきたものだ。
コップに麦茶を注ぐ。
オレが、母親を殺した。だから父親に命を狙われる。なんだか凄く通りのある話だ。
一瞬、鬼のオレがあの鋭い爪や歯で母親を殺したにも関わらず、それをオレは覚えていないのかと思った。
生まれた時に死んでしまった。だれにも防げなかった。
そう聞かされても、うまれた感情は変わらなかった。
きっとそれは父親であるという鬼もそうであるに違いない。
"お前が生まれなければ"
コップから麦茶が溢れ出し、慌てて傾きを直す。
シンクが水浸しだ。ふきんで拭き取って絞る。覆水盆に返らず。
どんなに取り繕っても、オレが殺したに変わりないのかもしれない。
「覚醒した今、あんたが面倒みてやる必要なんてもうないのよ!」
居間の扉は開けたままなので、閏の声が廊下でも聞こえた。
「必要とか必要ないとかで考えることじゃねぇよ」
「あの女の頼みだって言ってたじゃない」
「ホントはもう暦の頼みとかどうでもいいんだ。オレ自身が見ていたいんだよ、あいつの成長を。あいつの傍にいた者として」
「そんなことしてたら……」
立ち聞きも嫌なのでそこまでにした。居間に入ると、春海がソファで頭を抱えていた。
「まとまったか?」
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