三.朔風払葉

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 冷蔵庫を開けて麦茶のポットを出す。それはキャラもののポットで、春海が気に入って買ってきたものだ。  コップに麦茶を注ぐ。  オレが、母親を殺した。だから父親に命を狙われる。なんだか凄く通りのある話だ。  一瞬、鬼のオレがあの鋭い爪や歯で母親を殺したにも関わらず、それをオレは覚えていないのかと思った。  生まれた時に死んでしまった。だれにも防げなかった。  そう聞かされても、うまれた感情は変わらなかった。  きっとそれは父親であるという鬼もそうであるに違いない。  "お前が生まれなければ"  コップから麦茶が溢れ出し、慌てて傾きを直す。  シンクが水浸しだ。ふきんで拭き取って絞る。覆水盆に返らず。  どんなに取り繕っても、オレが殺したに変わりないのかもしれない。 「覚醒した今、あんたが面倒みてやる必要なんてもうないのよ!」  居間の扉は開けたままなので、閏の声が廊下でも聞こえた。 「必要とか必要ないとかで考えることじゃねぇよ」 「あの女の頼みだって言ってたじゃない」 「ホントはもう暦の頼みとかどうでもいいんだ。オレ自身が見ていたいんだよ、あいつの成長を。あいつの傍にいた者として」 「そんなことしてたら……」  立ち聞きも嫌なのでそこまでにした。居間に入ると、春海がソファで頭を抱えていた。 「まとまったか?」     
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