三.朔風払葉

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「そしてみんなに護られて無事に君が生まれた。……だけど、代わるようにして暦が死んだんだ。彼女を愛していたレキは、豹変した。彼女は彼の世界のひとつだったから、世界を揺るがすというのは本当だと、君を殺そうとした。……気が動転していたのもあるんだと思う。そばに居た十二人でも止めるのがやっとだった」  オレは生まれた瞬間に、すでにふたりの世界を破滅させたんだ。どうしようもないことだったとしても、仕方がなかったことだとしても、そうなったのは事実だ。 「でも、そうなることを彼女はわかってたんだ。オレは暦に、自分が死んでも君を護ってくれって頼まれていた。例え、彼と敵対することになっても、ってね。もちろんオレは承諾したよ。元々あいつのことは嫌いだったからな」 「春海はオレの母親のこと、大切だったんだな……」 「うん、大切だったよ。とてもね」  じゃあオレは春海の世界も壊したんだ。自分でも理由はよくわからないが、かなり気持ちが沈んだ。 「だから彼女の遺したセツのこと、護りたいと思った」 「……え」 「なにも知らない君を、どこかの伝承なんかに殺させてたまるかと思った。これはセツが覚醒した今も、変わらないよ」  真っ直ぐに見つめられ、そう告げられる。 「……春海」  春海はいつでも味方でいてくれる。そして、いつでも心に響かす言葉を投げてくる。わかったように投げてくる。 「なんだか口説いてるような雰囲気ね……」  閏が不愉快そうに言った。     
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