四.地始凍

1/17
前へ
/243ページ
次へ

四.地始凍

 玄関に入ると魚のにおいがした。台所の方に向かいながら独りごちる。 「今日は焼き魚かな」 「今なんていいました?」  聞き覚えのない冷たい声がして、見知らぬ者が台所から出てくる。 「え、誰?」  間違えて人の家にあがったわけではないはずだ。ぽかんとその者の顔を見上げる。その人は無表情で見つめてくる。 「おお、セツ。おかえり」 「ただいま」  春海も台所から出てきたが、そいつから目を離さないでいると、春海がおっといけねと言う。 「こいつはノーモン。半魚人でオレたちの味方ね」 「よろしくお願いします」  不審者でないことはわかったが、まだ観察をやめない。  どこからみても人間にみえる。だが、半魚人というだけに、仄かに魚の匂いが彼から漂ってくるような。  春海の知り合いはどちらかというと人間寄りの妖が多いようだ。 「あーもーお腹空いた!」 「あれ、閏もいたんだ」 「あんたが夕飯出来るからこいつを迎えに行けって言ったんでしょ!」 「そーでした、そーでした」  迎えにといっても、途中から野良猫がついてきちゃった、みたいな構図だったのだが。 「……」  ノーモンが顔を蒼くして固まってる。素朴な疑問が口から出た。     
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加