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四.地始凍
玄関に入ると魚のにおいがした。台所の方に向かいながら独りごちる。
「今日は焼き魚かな」
「今なんていいました?」
聞き覚えのない冷たい声がして、見知らぬ者が台所から出てくる。
「え、誰?」
間違えて人の家にあがったわけではないはずだ。ぽかんとその者の顔を見上げる。その人は無表情で見つめてくる。
「おお、セツ。おかえり」
「ただいま」
春海も台所から出てきたが、そいつから目を離さないでいると、春海がおっといけねと言う。
「こいつはノーモン。半魚人でオレたちの味方ね」
「よろしくお願いします」
不審者でないことはわかったが、まだ観察をやめない。
どこからみても人間にみえる。だが、半魚人というだけに、仄かに魚の匂いが彼から漂ってくるような。
春海の知り合いはどちらかというと人間寄りの妖が多いようだ。
「あーもーお腹空いた!」
「あれ、閏もいたんだ」
「あんたが夕飯出来るからこいつを迎えに行けって言ったんでしょ!」
「そーでした、そーでした」
迎えにといっても、途中から野良猫がついてきちゃった、みたいな構図だったのだが。
「……」
ノーモンが顔を蒼くして固まってる。素朴な疑問が口から出た。
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