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「でも納得。だからすべてのものを惑わす美しさがないわけだ」
「オレはお前の顔、好きだぞ」
慰めはよしてくれ。
「もうひとつ、十二の妖の前に君に贈った人がいるんだ。オレはそれを一番知っていてほしい」
死ねと言った妖か? いや、父親か?
「暦だよ」
ああ、母か……。
「オレたちが洗礼をすると教えたら、彼女はこう言った」
"それじゃあ、あたしは、人も妖をも愛す慈愛を授けるわ"
「彼女は人間だから、オレたちのそれとは違うんだけどさ」
人も妖も愛すような子であってほしいと母は願ったわけだ。
自然とそれはしっくりきた。
自分は人でもあり、妖でもある。だからどちらかを嫌うなんてことはきっとこの先もないのだろう。
夕飯の片付けを終え、一息ついていると、外から物音がした。車の音でも人の声でもないなにか変な音だった。閑静な住宅地にはあまりないことなので不審に思う。
「こんな時間になんだ?」
「僕見てきましょうか」
「いいよ、オレ出るから」
洗濯物をたたんでくれているノーモンがそう言ってくれたが、家主であるオレが行くべきだろう。春海はお風呂に入っているし。
玄関を開けると、陽はとっくに暮れているはずなのに、なにやら明るい。
「うわ、なに!」
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