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家の前の道路で焔があがっているではないか。
声を聞きつけ、閏が出てくる。春海も下だけ履いた状態でTシャツ片手に飛び出してくる。
「これは普通の火じゃないな」
「水! 水!」
「これはそこらの水じゃ消えないよ」
焔の向こう側に誰かいる。
危険だ。
「君、離れた方がいい!」
呼び掛けても反応がない。焔に怯えてる様子もない。
「ねぇ! 君!」
春海がその姿をまじまじと見る。
「あれは……」
「あいつ、知ってるよ」
閏がはっきり言いきる。
「あんたの父親レキと後妻の鈴鹿御前の娘だよ」
え、そんなのいるの?
春海を見やると、神妙な顔して頷く。
鈴鹿御前ってたぶん妖だよな。つまり、純血の異母妹というわけか。
確かに焔の向こう側の人は女性のようだ。あまり大きい影ではない。
「ちいさな黄鬼と緑鬼と紫鬼の三兄弟を従えてるって聞いたから間違いないよ」
鬼?
目を凝らすと、確かに想像上の鬼とほぼ同じ格好をした小さな者たちが、彼女の周りで飛び跳ねている。可燃物のないところにあがる焔に、それぞれ空気を吹き込んだり、風を仰いだり、液体を巻いたりしている。
「なんか楽しそうだな」
「まだ子どもだからね」
彼らの行動によって焔の勢いが増しているようには見えない。
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