一.蒙霧升降

4/15
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/243ページ
「ホントだね。これじゃあ、ただの人間じゃない? 間違いないの?」 「こいつで間違いない。早く始末するぞ」 「狼がそんなに怖い?」 「群れで暮らす奴らは厄介だ」  なんだよこれ。  オレが狙われてんの? もしや殺される!?  また赤い光が浮かぶ。  どこに逃げるべきかと見渡すが、変な霧のせいで周りの状況がわからない。 「セツ!!」  春海の声? 掃除は終わったのか。  ぞわりと鳥肌が立つ。  目の前で光があがる。風と轟音。  真横でなにかが転がった。 「春海っ?!」  転がったものは人で、それが一目で春海とわかる。 「は、春海!! おい!」  彼に飛びつき、彼を揺さぶると液体がべっとりと手についた。  真っ白なシャツが紅く染まっていく。  嘘、だろ……? 「うっ」  急に吐きそうになり、反射で口を抑える。  気持ち悪い。  身体の中からナニかが出てこようとしている。  堪えきれない。  よくも。  なんだこの感覚。  どうしようもない。  殺してやる。  吐き出すしかない。  殺してやる! 「うわぁぁあぁ――――――――――!!!!!」  自分の叫び声を、どこか遠くで聞いたような気がした。  ゾクりと背筋が凍りつくような妖力に、彼らは動けない。     
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!