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「彼女はよく妖の世界に遊びに来ていてね。人間のくせに妖の気が妙に強くて、はじめはオレも気が付かずに仲良くなった。たくさんの妖がその妖気に惹かれ、騙された。人間とわかってからも、誰も離れていこうとはしなかった。君のパパもそのひとり。二人はいつしか恋に落ち、そして、君を身籠った」
父親の顔は見たことがなかった。シングルマザーなんて珍しくない。誰も説明しなかったから、母もそれなんだろうと勝手に思っていた。
妖っていうと、妖怪だろう?
「そいつはどんな奴? 目玉だったりしないよな?」
「鬼だよ」
「おに……」
「あ、ちょいその想像ストップ!」
オレが想像しようとして出したもくもくとした吹き出しを消すように、春海は宙でぶんぶんと手を振った。
「なんだよ」
「鬼って一括りにしてるけど、パンツ一丁で金棒握った赤鬼や青鬼のような奴もいれば、賢く人を惑わす美貌を持ったヴァンパイア《吸血鬼》も鬼の一種なんだからな」
亡き母に余計な心配をしてしまったわけだ。
「セツの母さんは、決してパンツ一丁の奴には惚れてないからな」
「なんか必死だな。じゃあ吸血鬼に魅せられたわけか?」
「それもちょっと違うんだけど、あいつらの出逢いとかその結果は長くなるから今日は割愛な」
そう言ってオレの好物をばくばく食い出している。
オレも食べようとサラダとローストビーフに手を伸ばし、ふと思う。
「それってさ、オレも人を殺したり食べたりするかもしれないってこと?」
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