七.草木萠動

11/16
前へ
/243ページ
次へ
 未だに赤い糸は、うねうねと出口を探して彷徨っているみたいに動き続け、周囲を取り囲んでいく。 「これでここらはオレのテリトリーだ」 『人間風情が我らの地を犯すなど』 『あってはならぬ!』  緑色の炎が化学反応でも起こしたように一気に燃え上がる。 「ここはオレが食い止める。セツは走れ」 「え」  考えるよりも先に身体が動いていた。いや、動かされていた。  先生がオレの腕を引っ張って紅い社殿に向かって走る。 「先生!」 「あのくらい丙に任せとけば大丈夫だって」  紅い社殿の少し前まで辿り着くと、先生が立ち止まる。 「オレは此処から先は行けないから」  丙の赤い糸もここ以上先にいけずにぐるぐるとした後、術者の元へ戻ろうとしている。  石段をひとつ上がると、空気が変わった気がした。  振り返ると丙や緑色の炎、先生の姿があったが、まるで別次元にいるかのように気配がない。  でも、不思議と怖くない。逆になんだか懐かしい気もするんだ。  先生が心配そうな顔で一言。 「気をつけろよ!」  扉に手を掛ける。背後ではお狐が叫んでいる。 『ならぬ! ならぬ! ならぬーー!!!』  思いっきり扉を引くと、ぶわっと生暖かい空気が中から吹き出した。  瞬間、身体を前に引っ張られた。そのまま社殿の中に入り込むと、バタンと自然に扉が閉まった。     
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加