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未だに赤い糸は、うねうねと出口を探して彷徨っているみたいに動き続け、周囲を取り囲んでいく。
「これでここらはオレのテリトリーだ」
『人間風情が我らの地を犯すなど』
『あってはならぬ!』
緑色の炎が化学反応でも起こしたように一気に燃え上がる。
「ここはオレが食い止める。セツは走れ」
「え」
考えるよりも先に身体が動いていた。いや、動かされていた。
先生がオレの腕を引っ張って紅い社殿に向かって走る。
「先生!」
「あのくらい丙に任せとけば大丈夫だって」
紅い社殿の少し前まで辿り着くと、先生が立ち止まる。
「オレは此処から先は行けないから」
丙の赤い糸もここ以上先にいけずにぐるぐるとした後、術者の元へ戻ろうとしている。
石段をひとつ上がると、空気が変わった気がした。
振り返ると丙や緑色の炎、先生の姿があったが、まるで別次元にいるかのように気配がない。
でも、不思議と怖くない。逆になんだか懐かしい気もするんだ。
先生が心配そうな顔で一言。
「気をつけろよ!」
扉に手を掛ける。背後ではお狐が叫んでいる。
『ならぬ! ならぬ! ならぬーー!!!』
思いっきり扉を引くと、ぶわっと生暖かい空気が中から吹き出した。
瞬間、身体を前に引っ張られた。そのまま社殿の中に入り込むと、バタンと自然に扉が閉まった。
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