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「え……。上から目線だったけど、穏やかな兄さんだったな」
しかしまぁ、こんな危険極まりないだろうとこに飛ばすくらいには性格悪いが。
春海を傷付けた相手がここにいるということだろうけど……。
周囲には太い石の柱が並ぶ。パルテノン神殿を思わせるような建物だ。
大理石のようなつるつるとした光沢のある地面はひんやりとして冷たいが、気候は暑くもなく寒くもない。
妖界って、もっと薄暗くて赤い靄が舞う空を奇怪な声を発する妖鳥が飛び交い、地を人間サイズの百足が這うようなところを想像していたが、どうやら杞憂だったらしい。見たことがない青黒い花が咲いていたり、火の玉のようなものが浮いていたりするが、それはなんとか許容範囲だ。
春海から少し離れたところに紅い塊があった。
「なにあれ」
「あいつがレキだよ」
「あれが……」
よく見れば、紅い厚手のマントを被って蹲っている人、いや妖がいる。
金色の髪の間から二本の真っ黒の角がみえ、長めの前髪からどこも見ていないような虚ろな紅蓮の瞳がのぞいている。
だいぶ、若くみえる。
あれが父だとは流石に思えない。
まるで今さっき大切なものを失ったばかりかのような雰囲気で、憔悴しきっている。
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