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書類を取り出して仕事を始める。あくまで手持ち無沙汰でしているだけだから、気楽にすることが出来た。
部屋の中には、たまにパラッと紙の音が響くだけで、とても静かだった。こんなホテルが防音をちゃんとしているとは思えないから、単純に宿泊者がいないのだろうとあたりをつけた。
シャワーで体を洗い流したばかりだからか、なかなか清々しい気分で仕事が進んだ。ふと腕時計を見ると、もう寝るのにいい時間だった。私は書類を片付け、ベッドに向かおうとして……
突然、辺りが真っ暗になった。
一瞬ヒヤリとしたが、おそらく停電だろう。別に外で雷が鳴っているわけでもなし、なにかトラブルでもあったのだろうか。そう考えつつも、私は落ち着いていた。しなければならないことなど寝ることだけだからだ。とはいえなにか緊急の事態でも起こった可能性もある。とりあえず私は、浮かしかけた腰をおろして椅子に座り直した。
真っ暗な部屋。私などは暗闇の中にいるとむしろ安心するたちで、停電のときは逆に気分が高揚する。だが座り続けて三十秒ほどが経過した時には、そんな気持ちは小さくなり、代わりにどんどん不安が膨れ上がってきた。
おかしい。何かがおかしい。やはり完全に何も見えないという状況は本能的に不安を煽るのだろうか……? だが、それでは自分の不安を説明しきれていないと感じた。真っ暗だからいけないのか、少しくらい月でも出ていれば……
いや。まて。
月は出ていたじゃないか。電気をつけるまで部屋を照らしていたはずだ。
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