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U君はその頃、大学の同期生だったFという男性と同居していた。
「そういうことは、ある」
U君の話を聞いたFはそう言った。九州出身のFは、「地元は山しかなかった」そうだ。
そのFが「ある」と言ったのは川に浮かんだ目の話ではなく、川の渦のことだった。
「川の底だとか、見えなくても川底の地形とか、そこまでの水流の影響とかを受けるんだよ。泳いで遊んでると、すぐ隣なのに急に流れが早かったり、流されたりする」
東京もんのお前にはわからんだろうけど、とFは最後に付け足した。
そんな水の深さだったろうか、とか本当に目に見えたのだ、とか言っても、Fが「東京もん」という言葉を使うときはそれ以上取り合ってもらえないし、自分も不快な話になりやすいのはわかっていた。
実際、その方がU君にも都合がよかった。
そういう渦があり、見間違いならば。
それならば、U君を見る前にあれが『見て』いたのはN先輩だったんじゃないか、なんて考えなくてもいいのだ。
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