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第1章・目覚め
朝、起きると世界は滅びていた。
それはいつもと違う目覚めだった。どこかおぼろで静まったまま意識だけがそこにあった。
上体をゆっくりと起こし、ベッドから周囲を見回すと部屋は完全に朽ち果てていた。そこは薄暗く苔が生え、廃墟の匂いがした。
「・・・」
自分がこのベッドに寝る前のことが上手く思い出せない。自分がこのベッドに寝たのは、昨日のことのようでもあったし、何年も前のような気もした。寝てから一体何日経っているのか、一体何が起こったのか、全く分からなかった。
時計は止まっていた。時計だけでなく時間そのものが止まっているような感覚さえあった。携帯も開くがやはり完全に壊れていた。
「・・・」
下の階に下り、リビングに行った。が、やはりそこは何年も何十年も空き家だったがごとく朽ち果て、そして誰もいなかった。
無駄とは分かったが、テーブルの上にいつものように置かれたテレビのリモコンを手に取った。ボタンを押してみる。
「・・・」
やはり、何かが反応する感触すらも得られず、完全な無駄だった。
一体、父は、母は、家族は、どこへ行ったのか、生きているのかさえ、その痕跡すらも全く消えていた。
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