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外に出た。玄関ドアの取っ手は、ちょっと強く押すとそれ自体が朽ちてそれごと取れてしまった。
「・・・」
僕はそれだけ手に残った、奇妙にも思えるその触り慣れた取っ手をその場に虚しく捨てた。
外の世界も同じだった。厚く苔むした家々、コンクリートの隙間からから突き出る草木、苔と草に覆われた道路、町自体が廃墟のように不思議と人だけがいなくなっていた。
「生きているのは僕だけなのか・・」
人がいないというよりも、人の存在している空気感そのものがなかった。
静かだった。人がいないだけで世界はこんなにも静かなのか。全く昼間、僕が知っている同じ町を歩いているとは思えなかった。
見慣れた町では確かにあった。しかし、それはもう僕の知っているそれではなかった。
時間が止まってしまったみたいに、全てが止まっていた。社会の機能だけではない。ありとあらゆる人の営みそのものが止まっていた。
歩いても歩いても景色は変わらなかった。見慣れた、住み慣れた、あの人の作り出した文明に出会うことはなかった。
自然に飲み込まれた世界。
文明が崩壊してから、もう何十年、何百年、何千年と経ってしまったかのようだった。
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