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第3章・カビ
不意に目が覚めた。上から太陽の細い光が暗いコンクリートのじめじめした空間に降り注いでいた。
僕はとっさに右腕の傷口を見た。傷口は何か緑色のものに覆われ、それがキラキラと小さく輝いていた。
「カビだ」
それはカビだった。傷口にびっしりとカビが生えていた。僕は慌ててその厚く生えたカビをはらった。
「あっ」
カビに覆われていたその下の傷は、殆どが消えていた。―――まるでカビが治してくれたみたいに・・。
「・・、これは・・」
とっさに、自分の体の他の部分を色々様々に動かし確認した。やはり、どこも異常は感じない。右腕だけではなく、他の所もしたたか打ったはずだが・・、痛みすら、その痕跡すらもなかった。
「いったい・・」
あらためて傷口を見るが、傷口はよく見ないと分からないほどに消えていた。
「あっ」
そういえば、長年の持病だった喘息やアトピーも消えている。僕は今、初めてその事に気付いた。呼吸がとても楽だ。それは空気がきれいなせいだけではなかった。いつもつきまとっていた不快なヒリヒリする喉の痛みが完全になくなっていた。しつこく出ていた指のアトピーもきれいさっぱり無くなって、何事も無かったみたいな奇麗な肌になっている。
「一体・・・」
僕は自分の手のひらを裏表何度も見つめた。
「どうなっているんだ僕の体は・・」
そういえば、一日中歩き回ったのに、全く疲れを感じていない。それどころか、お腹も減っていない。
それになんとなくだが、自分の感覚が鋭くなっている気がした。五感が研ぎ澄まされ、今まで感じていなかった、感じることの出来なかった何か微妙な感覚が感じられていた。
「一体・・・」
ふと、足元を見ると、薄闇の中で何かがキラキラと輝いた無数の粉のようなものが見えた。多分さっきはらったカビだろう。それが一か所に集まり始めると、何かねばねばした丸い無数のマッチ針みたいものに変態していった。―――かと思うとそれが更にアメーバ状の形に変態し、ゆっくりと移動し始めた。
「これは・・」
それはじわじわとゆっくり、暗がりへと入って行き、―――そして闇の中に消えた。
「・・・」
僕は呆然と、その生き物?の去って行った暗がりを見つめた。
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