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第4章・海
何とか落ちた溝から這い出し、再び歩き始めた僕は海に出た。
「これが海・・・、なのか・・」
ヘドロとゴミの浮いた濁った海しか見たことがなかった。それが当たり前だと思っていた。海岸沿いには、化学工場や、企業の大型倉庫が乱立し、岸部はコンクリートで完全に塗り固められ要塞化した、そんな海しか僕は知らなかった。
しかし、今、目の前に広がっている海は、輝いていた。ただ輝いているのではない。それは生きていた。広大な海がその圧倒的存在全体で鼓動し、息づいていた。輝きが透明なブルーのどこまでもどこまでも深いところから、生命力を解き放っていた。
「・・・」
僕はただ言葉もなくその美しい海を見つめた。
海沿いに乱立していた化学工場も巨大倉庫群も、やはり植物に勢いよくに覆われ、大半が朽ちるか、崩れ落ち、その姿を消していた。埋め立てられていたコンクリートの岸壁も波と植物によって浸食され、自然な状態に戻っていた。
「なんだこれ」
涙だった。僕は泣いていた。自然とはこんなにも美しいものだったのか。自然とはこんなにも感動的な存在だったのか。僕は今までに感じたことのない何か大きな感覚に包まれていた。
「・・・」
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