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ピックでガシガシ氷を削ると、すぐに綺麗な丸になる。
「おー、すげー。チヒロかっこいい!」
タケが歓声を上げる。チヒロは
「ちょっとマスターっぽいでしょ」
とウインク。手の中の丸い氷を太目グラスに静かに入れると、すぐに二つ目の氷を取り出し、今度は氷の塊をアイスピックでコツコツ、と叩いて細かくしたのを高めのグラスにそっと入れて、1ショット分測りながらウイスキーを注ぐ。次に炭酸のペットボトルを傾けてグラスを満たしていく。
「はい。甘目ハイボールと渋めロック」
と、タケとナミの前に氷とトロっとした琥珀色のウイスキーが入ったグラスを置いた。
ふたりはグラスに顔を近づけて、恐る恐る匂いを嗅いでる。
「おー、なんかお花みたいな匂い!」
ナミが声を上げる。タケは、
「うわっ! これ、ちょっと大丈夫? なんか…正露丸の匂いする…」
と不安げな顔をした。
「正露丸て。何言ってんの、そんなお酒あるワケ…」
と笑ってるオレの前にもグラスが置かれた。
「はい。スケも匂い嗅いでみー」
チヒロがいたずらっ子みたいに目を細めてる。
これは何かある…? チヒロと目を合わせたままグラスに顔を近づけると、
「うっわ! マジ正露丸の匂いする‼
ちょっとチヒロー、コレ本当に美味しいのー?」
薬品の匂いにびっくりだよ!
これ、飲んでいいもんなの? でもチヒロは目を細めたまま、
「ま、騙されたと思って、一口飲んでみ?」
と言い放つ。
もうさ、オレ、ちょっとヤケになったよ? 胡散臭そうな目でグラスを見てるタケより先に、思い切ってグラスに口をつけた。
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